2004年外国人による日本語弁論大会 発表原稿
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「世界が広がる」
ベベナム ジャヘドザデ
私は1999年、東京外国語大学に一年間留学しました。
これは私の初めての外国旅行でもありました。
わくわくして日本にやってきました。
テヘランのメヘラバード空港から成田まで約12時間かかります。
さらに成田から寮に着くまでに約3時間かかり、鍵を貰って部屋に入ったころには、もう日が暮れていました。体がくたくたでした。
空腹でベッドの上に寝転び、そのまま寝てしまいました。
目が覚めたのは翌朝の9時頃でした。

ところが前の日、大学の人に、「明日の朝9時に、会議室に来てください」と言われたことを思い出しました。朝ご飯を食べるどころではありませんでした。
慌てて服を着て、駆けつけたら、既に数人の留学生が来て説明を受けていました。

銀行で口座を開いたり、役所で登録をしたりと、必要な手続きをしていたら、昼の12時過ぎになってしまいました。
最後の食事から24時間以上が経っていました。そろそろ食べられるかな?と思ったら、今度は留学生課の人がやって来て、図書館、教室、コンピューター室など、次々と親切に案内してくれました。
しかし、どのくらい経ってもなかなか食堂の話は出て来ません。
おなかがすいて、本当にもう倒れそうです。
これ以上我慢できないと思っていたら、ちょうど案内も終わりました。そこで、こちらから食堂の場所を尋ね、早速食堂へ行きました。

食堂に入って、刺激を受けたのは、匂いでした。それは、今までに嗅いだことのない匂いでした。日本料理もまだ何も知りません。どうすればいいかと考えていた時に、列に並んでいる一人の留学生に話し掛けられました。「いつ来た」「どこから来た」とか話しながら、彼の後ろに並びました。
彼が選ぶものを私も選ぶつもりでした。外国人である彼が食べるものなら、私にも食べられると思ったからです。

彼が選んだのはうどんでした。私も当然うどんを選びました。
これは何時間ぶりかの食事になるはずでした。

しかし日本での初めての食事として、うどんを口にしたとき、おなかがすいていたにもかかわらず、一口か二口しか食べられなくて、がっかりしました。
チュニジア人である彼が、ぱくぱく食べているのを見てうらやましくなりました。「こいつも外国人なのに。本当においしいと思っているのだろうか。」自分の口に合うように、イラン人がよく味付けとして使う塩をかけようとしましたが、あいにくテーブルの上には置いてありませんでした。
食べたいけれど、どうしても口に合いません。仕方なく我慢して食べました。
これは、私の初めてのカルチャーショックだったと思います
。このことがあってから、「私の知らない味は、きっと数え切れないほどあるだろう。」と感じました。
また、「知らない世界の数も、同じくらいあるのではないか。」とも思いました。

外国を旅行する人のなかには、現地の食事が口に合わないかもしれないと恐れ、

自分が好む味付けを持っていく人がいます。
私も日本に来る前、日本料理が口に合わないかも知れないから、イランのパンや缶詰を持っていった方がいいと、家族や周りの人に言われました。

しかし私自身は郷に入れば郷に従えという諺の通り、本当の日本を理解したいという気持ちがあったので、大丈夫だと答えました。

醤油の味や匂いが苦手だった、留学生活の初めの一ヶ月は、日本料理はほとんど食べられず、好きな食材を用意し、自炊で済ませました。

日本人の友達によく聞かれたのが、「納豆食べられるの?」という質問でした。
私が「あまり食べられないですね」と答えたら、「納豆はこんなにおいしいよ、ほら。」と言って、おいしそうに食べていました。
その時私は、「もし私も食べられれば、日本人の気持ちがもっとよく分かるのではないか。」と思いました。

このことがきっかけで、「やっぱりこのままではだめだ。日本料理を楽しもう。」と思いました。
まずは日本茶から挑戦するのが一番いいと考えました。お茶は日本の伝統的な飲み物で、日本人が飲むと、「おいしい〜!」と言いますが、飲んでみたら「砂糖が足りない。」と感じました。
その次に麺類の中で、イラン料理に一番近い味の、塩ラーメンを試してみました。

何度か食べてるうちに、おいしさが分かるようになりました。さらに、みそラーメン、寿司、カツ丼や天ぷらなどを、日本人といっしょに食べて、おいしさを共有することも出来ました。

「あっ!これ、うまいな〜。」日本料理に馴染んでから日本人の気持ちが分かり、日本語もうまくなったような気がします。また、日本人の友達も増え、何週間も日本人の友達の家に泊まったこともあります。

イラン人は、人と会う時、笑顔で挨拶し握手をします。
親しくなってからは頬を合わせてキスをすることもあります。
日本人は多くの場合、少し恥ずかしそうにして、目も合わせず、握手もしません。
イラン人と比べると、日本人はあまり表情を変えず、感情を表に出さないので、始めのうちは、「自分は歓迎されていないのではないか。」と思うこともありました。

しかし、そうではありませんでした。
握手しなくても、心と心が通じ合えばいいと分かって来ました。
日本人の家族と一緒に過ごし、同じ食事を味わったお陰で、日本の文化や習慣、日本人についても一層理解できるようになりました。

文化と言葉の間には深い繋がりがあります。
文化の入り口である言葉を勉強し始めると、その文化も当然身に付きます。その文化を受け入れなければ、言葉の学習にも支障を来たすようになります。

おふくろの味は確かにおいしいです。
しかし、自分の口に合わない味に挑戦するのも、大切ではないでしょうか。私は、新しい味を知り、自分の世界が広くなったと思います。
日本語を勉強する後輩たちにも、「日本の食文化を味わうのも大事だよ。」と勧めています。

今年の4月、4年ぶりに日本への留学が決まりました。
日本に留学している貴重なこの機会に、より多くのことを経験し、日本の文化をより深く理解して、
これからも日本の文化をイランに、そして、イランの文化を日本に紹介していきたいと思っています。
これは両国の相互理解につながると思います。
私の二つの故郷、イランと日本の間の架け橋になれれば幸いです。





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