「もう一つの耳」
ジュユ キティ ファン
 私がまだ幼かった頃、父は私によくこう言ったものです。
「外国語をわかろうと思うのなら、もう一つの耳を持つようになりなさい」と。
私は台湾で生まれ育ちましたので、台湾のほとんどの人々と同じように中国語や台湾語を母国語として当たり前に話すようになりました。
ですから、私はオーストラリアに移住するまでは父の言葉の持つ「本当の意味」を分かってはいませんでした。

 私が12歳の時、私たち家族はオーストラリアで暮らし始めることになり、私と共に弟、妹たちは比較的に幼い時に英語を学ぶ大きな機会に恵まれ、英語を身につけるための貴重な基礎を得ました。
しかしそのような外国語を身につける機会は英語だけではありませんでした。と申しますのは、高校に入学して、私達はまた他の外国語を学ばなければならなかったからです。
私にとっては、実質的には第二外国語なのですが。
私がアジアで生まれ育ったという生い立ちからでしょうか、その時私はフランス語やドイツ語、スペイン語ではなく日本語を選んだのです。
このような経緯があって、私は様々な言葉を十代の頃に学ぶ機会と経験を得る幸運な人間になれたわけです。
そして、日本語という外国語でコミュニケーションをとるという素晴らしい経験をしただけでなく、日本語を学ばなければありえないたくさんの達成感をも得たのです。

 たとえば、私は1998年に初めて日本を訪れたのですが、これは関西国際交流協会主催の日本語試験に合格し、二週間の日本旅行をする機会を与えられたからでした。
その二週間の間、私は京都や大阪、広島、東京など多くの土地を訪れ、日本の文化にたくさん触れることができました。
なかでも、大変におもしろく素敵なことだと感じたのは、世界中からやってきた同じツアー仲間の83人と、私達は全員がお互いにコミュニケーションをとるために日本語を共通言語として用いたことです。
私にとって、大変な驚きでした。
なぜなら、私はそれまで英語を、いわゆる「国際言語」だと考えており、世界の各地において多くの人々が日本語を英語のように学んでいることに気付いてはいなかったからです。
この旅は不思議な磁力をもって私をさらに日本にひきつけたのでした。

 また、その年の後半には、オーストラリアで開催された全国日本語弁論大会において、私は思わぬことに優勝することができました。
そのご褒美として私は日本への往復航空券をいただき、それを使って北海道への短期交換留学プログラムに参加することができたのです。
その時に、私は北海道の壮大な自然や地元に住む人々の優しさに接することができましたし、さらに滞在先のご家族と深い親交を結びあうこともできました。
それらの経験こそが私が日本語を学び始めて何年もたった時点で、父の言う「もう一つの耳を持ちなさい」という言葉ををついに実感した瞬間だったのです。
外国語を理解するとは、単に言葉の意味を理解するのではなく、その言葉を話す人々の背景となっている自然、文化、歴史などからくる心を理解することだと知りました。
そこで改めて日本語力をもっと伸ばし、日本文化への理解を深めていこうと強く願ったのです。
そのために、私は日本の文部省の奨学生制度に応募し、幸運にも京都大学で一年間学べるようになりました。
京都滞在中には、それまで知らなかった関西弁に接することができて、最初は戸惑いましたが、これもまた日本語の新しい知識となり、多少なりと関西弁を話せるようになったことは私にとって、もう一つの大きな勉強となったのです。
その上、このプログラムに参加していた各国からの留学生と共に多くの日本人の友達を得ることができました。私はこの美しく、歴史的な街に完全に浸って、日本の歴史や文化に深く接したのです。
私が日本語を学び始めた頃には、このような多くのことが起こるだろうとは想像もしていませんでした。
これらの貴重な体験や自分の成長を導いた全てはもはや父が私に言った「もう一つの耳」という言葉さえ超えたものと言えるのではないでしょうか。

 私は現在、立命館大学で知的財産権法を勉強中です。
私が知的財産権法を学ぼうとした理由は、私たちは今「情報経済」の時代に生きているからです。
実際に新たな着想や革新が多くの商取引の機会を呼び寄せています。
そのような世界の現在の情勢を考えると、私には知的財産権法のような法律を学ぶことが必須となると思われます。

 私は将来、国際ビジネス関係の職業に就き、私が学んできた語学を生かしたいと思っています。
その時には、私と関係の深い日本、オーストラリア、中国あるいは台湾など、アジア、太平洋地域のビジネスの中で法律的な助言や協力を発揮していくことができるようになっていたいと思います。

 最後になりましたが、私がこの話を終える前に、日本に勉強にやってくる海外からの学生に奨学金を提供してくださっている日本政府に対し心からお礼の言葉を申し述べたいと思います。
そして、また、私に「もう一つの耳」を持つように話し教えてくれた父に感謝してこの弁論を終わらせていただきます。



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