「韓国での日本体験と夢」
リ チョリ
 まず、私が留学先として日本を選ぶようになった経緯から話させていただきます。私が韓国で博士課程に入った97年の年末、韓国は史上最悪の経済危機に落ち始めました。
その後、大手企業や銀行を含む、多くの企業が破綻し、大量の失業者が生み出され、危機の原因を巡って様々な論議が高まりました。
ある人は海外の短期投機資本を、ある人は国内の非効率的な財閥経済と金融システムを非難しました。

 そんな中、私が大学図書館で経済危機に関するある書籍を探していた時、驚くべき事実が分かりました。その書籍が1920年代の多少古い本といえども、英語で書かれているはずの原本がないのに対し、探していた本の日本語翻訳版があったのです。
その頃、私は日本語のひらがなや簡単な動詞ぐらいは知っていましたから、それでもいいから読もうとしましたが、やはり無理でした。結局、ある先生から英語の本を借りて読むことにしました。
しかし、そんな経験はその本一冊に限ったものではありませんでした。
私はこれが歴史的な遺産なのかと思いながらも、念のためインターネットを使って経済関連文献の日本の翻訳事情を検索してみると、欧米の本が殆ど翻訳されていて、かつ最近の本まで翻訳されていることにびっくりしました。

 このような一種のショックが私の抱いていたある疑問に答えてくれたような感じがしました。
それは80年代、学生運動を率いた先輩らがなぜ日本語を勉強し、懸命に日本語の書籍を読もうとしたのか、更に日本はどうして欧米から受け入れた理論の研究を続け、日本独特の理論として定着させたのか、ということでした。
私の考えに過ぎませんが、その理由は海外で留学し研究した日本人学者が自分の研究対象又は重要参考文献になった書籍を日本語に翻訳し、国内学者と共に日本語で自由に議論しながら、それを共有できるからだと思いました。
更に日本の学者世界では翻訳を一つの成果として認めながら、研究者自身はそれを一つの義務と考えているかも知れません。

 韓国の97年の経済危機を巡る問題認識や解決方法を振り返ってみると、数十年前から、多くの学者や市民団体が財閥問題や不透明な金融システム問題について自主的に批判し改革を訴えていました。
にもかかわらず、韓国社会はこの積み重ねを見捨てて、政府は欧米の学者や世論を盾にして政策を立て、改革にのぞんでいます。
ひいては学者も市民団体も新しい欧米理論を身にまとって戦っているのです。
私が知っている限り、このような現状に疑問を持っている韓国人学者は少なくありません。
ある人は「近代化の歴史が短いから」と、ある人は「大学院教育が良く整えば」と言うかも知れません。
しかし、誰かがそれを準備しなければ、その日は永遠に来ないと思います。

 このような理由から、私はメールでアドバイスをしてくださった京都大学のある教授の指導の下で、経済危機に関する研究を続けるつもりで留学先として京都を選びました。
今年、桜が茂る四月、京都に来て、日本語の勉強だけでもう半年あまりが過ぎました。
今は日本語を勉強しながら、その教授のゼミに参加しています。今から翻訳に関する日本人学者の考え方や議論文化に直接触れ、どんどん慣れていくでしょう。
考えるだけでも胸がどきどきします。
数年後、私が韓国に帰ったら、まずしたいことがあります。それは先に述べた英語で書かれているその本を、日本語翻訳版を参考にし、韓国語に翻訳することです。

 ちょっと話が変わりますが、私が留学の旅に立つ時、韓国銀行の社員だった友達が突然なげかけた冗談が浮かびます。
彼は「君がアジア銀行の銀行長になったら、韓国支店の店長は僕にしてくれ」と言いました。
私は「うんうん、分かったよ」と笑って済ませました。
私たちが「アジア銀行」という言葉を使うようになったのはアジアで経済危機が相次いで起こった97年からです。
「アジア銀行」とはアジアで「国際通貨基金」、すなわち「IMF」に相当する役割を果たす銀行を言うのです。
もしそんな「アジア銀行」があったら、通貨危機がそんなに激しくアジア全般に及ぶことは妨げられたかも知れません。
もちろん、普通の人々はそれは雲をつかむような幻だと言うでしょう。
しかし、私はアジアで平和の定着、経済交流の拡大等が進むにつれ、その日が近づいてくるのを信じています。
冗談でも私に勇気づけてくれたあの友達のように、皆さんも回りの留学生や人々に自分の夢を忘れないように勇気づけてあげる友達になってくださったらいいと思います。


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