2003年外国人による日本語弁論大会 発表原稿
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「生かされる経験への昇華を考える」
イ キョンテ
 私のもとには、去年に続き、今年もまた林檎が届きました。
はるばる北国の秋田から送られたものです。
その林檎は、お母さんの苦労と真心が実らせた結晶だけに、私にとっては格別な意味があります。

 お母さんは、私が秋田のとある大学へ交換留学生として派遣されていた1998年に、県のホーム・スティ・プログラムをきっかけに知り合った方です。
2泊3日の短い体験でしたが、私は一生を持ってゆく大切な人間関係を築くことができました。

 お母さんとお父さんが暮らす秋田県の益田町を初めて訪れた日は、今にも忘れられません。
見渡す限り厚い雪に覆われ、町がまるで真っ白な平野のようでした。
その上をしきりに降りかかる雪、雪、雪…。
私は林檎畑の倉庫らしき小屋に連れて行かれました。
そこで、温もったコタツのもとで熱いお茶を飲みながら、実に様々な話を聞き、また話しました。
2泊3日の間、我々は心からお互いを解かり合おうとし、一部では感動を分かち合いました。
それ以降もたびたび増田を訪れることになって、両親との絆は一層深まりました。

 留学生活を送っていたら、たまにホーム・ステイの機会に恵まれます。
ホーム・ステイは、日本人の家庭に泊まり、素の日本人と気軽く話し合うことによって、色々なことが学べる絶好のチャンスです。
留学生の多くがこのようなチャンスを掴みたがっていることと思います。
ところが、高い競争率をくぐりぬけてホーム・ステイを経験した人たちの中で、ホスト・ファミリと引き続き連絡を取り合う人たちはどれくらいいるのでしょうか。
私の周りに限られた話ならいいのですが、ホーム・ステイのように日本人と触れ合えるチャンスが、一過性に終わってしまうケースを度々みてきました。
そのようなチャンスが、持続的な関係へと発展できず、一過性の経験に終わってしまうのは、非常に残念なことです。
参加者だけではありません。
ホスト・ファミリの方も持続的な関係作りに努力する必要があると考えます。

 それでは、何故、持続的な関係作りを強調するのでしょうか。
そこには、単純に知り合いを増やすこと以上の意味合いがあるからです。
私のケースがそれを物語っています。

 秋田には、増田の両親をはじめ恩恵を被られた方々が多くいらっしゃいます。
その方々との持続的な触合いを通じて、私は日本を再認識しました。
日本に対するそれまでの歪んだ偏見や先入観を捨て、自分の観点と経験に基づいた新たな認識ができるようになったのです。
そうなるにつれ、もっと日本が知りたい、解かりたい、という気持ちが増していきました。
そのような思いは、大学卒業後の進路に影響を及ぼしました。
日系の商社に入ったばかりか、その2年後には再び日本への留学を決めたのです。
そのときの心構えは、秋田での貴重な経験を振りかえりながら、日本のことをより深く学ぼうということでした。

 留学して2年が経とうとしている今、私は時々「経験」というものについて考えます。
経験といっても様々でしょうが、その全ての根底には「人との触れ合い」があるような気がします。
そして、人と出会い、お互いを解りあい、共に何かを行う過程で、最も価値の有る経験が生まれるような気がします。
そして、その「価値のある経験」は、一過性の出会いではなく、持続的な関係の結びあいから生まれるものだと考えます。
そのような「経験」こそが、今後も大いに生かされる経験になるのではないでしょうか。

 今回のテーマが「日本での経験を生かすために」であると聞いたとき、私は考えました。
まずは、有意義に生かされるような経験をすべきではないかと。
そのような経験の一つ一つが集まってはじめて、日本と国際社会を繋ぎ、相互理解と交流を可能にする集団的な力になるのではないかと。
その「経験」というのは、「人との触れ合い」に違いありません。
その意味で、ホーム・ステイやボランティア活動などは大切な機会だと考えます。
しかし、何よりも大切なのは「関係の持続」ではないでしょうか。
一過性の出会いに終わらせずに、引き続き連絡を取り合って、交流を深めることが何よりも大事ではないでしょうか。
そういう面で・ホーム・ステイのような機会がもっと増えても良さそうな気がします。
そして、与えられたチャンスを「有意義に生かされる経験」へと昇華させるために、お互いが持続的な関係作りに心がけていくべきだと考えます。

 去年の夏休みに、私は4年ぶりに秋田を訪れることができました。
増田の両親や学校の先生など、恩人の方々より多大な歓迎を頂きました。
このような方々に恵まれている私って、なかなかの幸せ者だと思いました。

 皆さんの中には、ホーム・ステイを経験した方も、またこれから経験する方もいらっしゃると思います。
その機会を長期的な関係作りへと昇華させるべきだと思いませんか。
時々の手紙や電話がその始まりです。
そして、既に申し上げましたとおり、国々の間における相互理解も、一人一人の深い交流から始まるものだと考えます。

 有り難う御座いました。


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