2003年外国人による日本語弁論大会 発表原稿
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「納豆まずいか、おいしいか」
トー ネーネー
 「先生、日本料理は好きですか。」
「そうですね、お寿司や刺身、伝統的なもので大好きですよ」
「納豆は?」
「いや、まずいですよ、ぜんぜん食べられません。」
「あ、先生は食べたことがありますか。」
学生たちは興味深く聞き続けました。

「さあ、そうではないですけど、よくまずいと言われまして、匂いだけでもいやなので、食べなかったのです。」
「そうですか。」
学生たちは残念そうに黙ってしまいました。
私はそれ以上話せませんでした。
 そうですね、納豆はいったいどんな味なのだろうか、たとえまずいと言っても、まずさがあるはずです。
でも、私はそれが知らないので、学生に教えようがありませんでした。
恥ずかしかったです。
試しもせずに他人の言われたことを学生に教えるものじゃないと思って、反省していました。

 フワー、強い気流によって、飛行機のゆれは私を夢の中から現実に戻しました。
目の前に輝いている雲の地平線、暖かくまぶしい太陽の光、真っ白な大地の果てをぼんやりと見つめている私がいました。
2003年9月16日、私は日本行きの飛行機に乗っていました。
中国大連外国語学院院生になっている私は、一年間の交換留学のチャンスに恵まれ、生まれて初めて飛行機に乗って、あこがれていた日本へ向けたのです。

 ほとんど何の不安も抱いておらず、ただ何でもわくわくして、楽しみにしていました。
日本語を勉強して五年、でも、それは全部本や先生によって知ったことでした。
実際の日本はどういう国なのでしょうか、実際の日本社会はどういう社会なのでしょうか、実際の日本生活はどういう生活なのでしょうか。
確かめたいことが頭で一杯になっていました。
本当のことを知ろうとすれば、この身をもって味わって見なければなりません。
ですから、いろいろ経験することが、私の来日の一番の狙いです。

 「まずい、どうして日本人はこんなものまで食べているの。」と思いながらも、お箸一杯に乗せて、口に運んでくるのは、納豆でした。
将来先生を目指している私は、ずっと納豆の味を説明できなかったことを根に持っていました。
自分の知らないことは他人に教えようがありません。
先生になろうとしたら、学生に確実なことを教えなければなりません。
確実なことを知ろうとしたら、実際に経験しなければなりません。
納豆の味を説明できなかった当時の恥ずかしさを覚えて、日本で最初に挑戦したのは、この納豆でした。

 「本当にまずい。」うなずきながら、我慢して食べ続けていました。
でもいったいどんな味なのだろうか。
腐った味噌の味?違う。
苦い?でもない。
納豆のまずさはなかなか定義できないものでした。
眉を顰めながら一箱食べたすえ、感じとれたのは、吐き気だけでした。
納豆は本当にまずかったです。
まずさと言えば、言いようがありませんでした。

 が、もし今誰かが私に
「唐さん、納豆はどうですか。」と聞いたら、私は必ず
「おいしいよ。大好き。」と考えもせずに答えるのでしょう。

 最初の吐き気にもかかわらず、納豆のまずさを知ろうと思って、二度、三度食べてみた結果、まずさはいつの間にかおいしさに変わってしまいました。

 日本人や日本文化をより深く理解するには、日本の生活に馴染まなければいけません。
日本の生活と言えば、食生活が重要の一部分なのです。
納豆を食べて日本の文化を知ろうと思っている私は、納豆からもっと大切なことを教えられました。

 口もせずに、匂いだけで諦めたことと、今の大好きの間には本質的に大きな差があります。
物事を実際にやらないと、実感がありえません。
しかし、実感も人によって違うし、同じ人にとっても実感は不変なものではありません。
一度や二度だけで物事の本質を知ることは難しいことですし、物事の考え方も偏りがちです。
特に先生として、学生に教えるべきことは、部分的のことよりも全体的のこと、物事そのものよりもそれを把握する考え方がもっと大切ではないのでしょうか。

 まずかった納豆は実においしいです。
納豆をきっかけに、私は日本文化を味わう方法を教えられました。
将来、日本での経験を生かすために、より多くいろんなことを経験することです。
一年間は短すぎます。
ですから、この一年間を大切に利用しなければいけません。
できる限り多くのことを経験するために、これからも精一杯頑張っていこうと思います。


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