2003年外国人による日本語弁論大会 発表原稿 |
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「日本で得た経験」 |
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オウ リョウ |
私は昨年四月に来日しました。 異文化社会の中で、多くのことを経験し、多くのことを学びました。 中でも、最も大きな経験は、何と言っても京都大学博士過程後期への編入と合格に至るまでの心の葛藤だったと思います。 それは、恐らく私の人生を方向づける決定的な経験だったからでしょう。 日本には、「石の上にも三年」という諺があります。 この諺は、粘り強さの重要性を強調するものです。 若者なら、だれでも夢を持つものです。 私の経験では、一つの夢の実現は自分の努力次第で、志を立て、それを目指して粘り強く努力さえすれば、必ず成功するということです。 夢を幻想で終わらせず、現実のものにするには、四つのことが必要だと思います。 一つ目は、自分の実力をよく考え、実現する見込みのないことは目標としないことです。 そうでなければ、如何に努力しても、とうてい実現できず、最後には幻のままで終わるからです。 二つ目は、自分の劣等感と戦って、自信をつけるよう努力することです。 結果はどうであれ、必ずできると信じて敢然とチャレンジする勇気を持つことです。 三つ目は、実現できると信じて目標を立てたなら、苦しみと辛さを恐れずに全力で目標に立ち向かうことです。 四つ目は、より高い目標のためなら、手に入れたものを潔く捨て去る度胸も必要だということです。 日本に来る前、私は日本の大学事情がよくわからないので、必ず東大や京大という一流大学に入りたいと盲目的に思い込んでいました。 ところが、来日して、いろいろ問い合わせをしたり、調べたりしているうちに、すっかり落胆してしまいました。というのは、東大や京大の博士過程後期編入は理論的にはできても、実際には、かなり難しくて殆ど不可能に近いということが分かったからです。 中国で修士の学位は手にしましたが、日本では中国で勉強したことがない科目もあるし、その頃、来日してまだ一年にもなっていないので、日本語も未熟でした。 そればかりか、一番困るのは、生活のために、アルバイトをしなければならず、大事な勉強時間は少なくなり、余裕がありませんでした。 それで、最初、博士過程どころか、修士過程に入るのも無理ではないかと思っていました。 私は好運にも慶応大学大学院の研究生になりました。 アルバイトも大学の近くにある貿易会社でした。 すでに落ち着いた生活ができていたのです。 しかし、京都大学に受かった場合、これらのものは全部捨てて、生計のあてもない見知らぬ京都に一人で行かなければなりません。 それらのものを思い切って捨てるのは実にもったいないことだと思いました。 その時、私はふと中国の有名な話を思い出しました。 それは、「人生にまたとないチャンスが何度めぐってくるだろうか」という話です。 一体日本に来た目的は何か?自分の夢をどのように実現すればいいのか? などと自問自答しながら、深く自分自身を見つめ直しました。 その結果、やはり京都に行き、京大にチャレンジしようと決心しました。 そして、躊躇うことなく京大の博士過程後期編入試験に応募しました。 それからというもの、私はネジを一杯回したバネのように体一杯に力がみなぎり、学習意欲がわいてきました。 入試に必要な六万字の修士論文も根気よく少しずつ日本語に翻訳することができました。 睡眠は以前の半分に減らし、夜二時、三時まで勉強する毎日でした。 今年二月の或る夕方のことです。 アルバイト先から疲れた体を引きずって帰宅した私は、ポストの中に京都大学からの通知があるのを目にしました。 早く見たくてたまりませんが、その手紙をしばらくの間、開けることができませんでした。 ようやく、ぶるぶる震える手で、思い切って、それを開けました。 「合格」という文字を確かめた時、私は自分の目を疑ったほどでした。 次第に言い知れぬ喜びがこみ上げ、あー、私の苦心と努力はついに報いられました。その時の気持ちといったら、一生忘れることはできません。 何人ものノーベル賞の受賞者を育成した京大。 私が憧れていた京大の博士過程に入る夢が叶いました。 しかし、これは決して終わりではないのです。 一つの通過点にすぎません。 今までの経験を生かすのはこれからです。 志を立てて努力さえすれば、世の中に難しいことはありません。 夢が叶う日が必ず訪れることを確信して頑張るつもりです。 留学生のみなさん、自信を持ってより高い目標を目指して共に頑張りましょう。 最後に、私の大好きな朱熹の有名な漢詩を詠んで皆さんと一緒に励みたいと思います。 少年老い易く 学成り難し 一寸の光陰 軽んず可からず 未だ覚めず他塘 春草の夢 階前の梧葉 己に秋声 ご静聴有難うございました。 |
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