日本での経験と将来の私
「出会い」
キム ナムヒ

 みなさん、人生の中でいろいろな出会いがありますね。
私の場合、「あんたメッチャ格好ええなぁ」とか「金ちゃんメッチャすっきやで」とか「彼氏になっておくれやす」などという女性達にはよく出会うんですが、こういう出会いは心に残ったり私の人生を大きく変えることはあまりありません。

 しかし、私が日本で経験したことの中で今でも心に残り、私の人生を大きく変えた出会いがありました。
今からその出会いについてお話させて頂きたいと思います。

 私は昨年の10月に希望に満ちて日本へ来て日本語学校に入学したのですが、日本人が日本語学校で日本語を勉強しているはずもなく、日本人の友人ができる機会がありませんでした。

 しかしある朝、朝ごはんを食べようと思い、勇気を振り絞って初めて近所の喫茶店にはいりました。
すると周りのお客さん達が皆口をそろえて英語で注文していたのです。
「モーニング下さい」。
普段から日本語の中に外来語が氾濫している状況を心配していた私は、ここで日本語を勉強している私が日本語を守らなければ誰が日本語を守るんだという危機意識を持ち、自信を持って純粋な日本語で「朝、下さい」と注文しました。
それを聞いた店員さんはびっくりした顔をしていたので、私は店員さんが聞き取れなかったと思い、もう一度はっきり大きな声で「朝、下さい」と言いました。
すると隣に座っていた男の人が笑いながら店員さんに向かって「この人にモーニングセット下さい」と言いました。
その後、彼は私に興味を持ってくれていろいろと話しかけてきました。
話しているうちに彼の彼女も私と同じ韓国人であることがわかり、話が弾んですぐに仲良くなりました。
それで私は再び会う約束をし、彼と彼の彼女と一緒にお酒を飲むことになりました。
酒が進んでお互い腹を割った話をするまでになりました。
2人は結婚を考えていたのですが、双方の御両親がただ相手が日本人、または韓国人という理由だけで反対したとのことでした。
彼の話を聞いているうちに彼ら以外にも同じようなことで苦しんでいる人達が多いと思い、3人で話し合って日本と韓国が持つ悲劇的な過去を乗り越え、よりよい日韓関係を築くことに我々が微力ではあるが手助けをしようではないかということで、日本人と韓国人によるサークルを作ることになりました。

 ところで、私はこの3月に不幸にも交通事故にあいました。
歯が3本折れ、足も折れるほどの大変悲惨な事故でした。
事故の後、怖い顔をした警察官が取り調べに来て、思い出したくない私の記憶について詳しく調べあげた後、薄笑いを浮かべながら「日本では信号を信じたらあかん」と私に言い残しました。
「信じる」と漢字で成り立っている「信号」をなぜ信じてはいけないのか。
その警察官の一言は私を悔しくさせました。
私が持っていた、日本人は親切で社会のルールをよく守る民族であるというイメージは、この一言で粉々に打ち砕かれてしまいました。
世界一安全な国だと思っていたのに、その国の警察官が被害者である私を助けてくれないばかりか、まるで私が悪いと言わんばかりの態度を取ったのです。
私は何もかも信じられず、気が狂いそうになりました。

 この警察官の一言や言葉も通じない異国での一人寂しい入院生活は、私に日本での生活を諦めようとさせるのに十分なほど暗く、心痛むものでした。
私がもう全て諦めて国へ帰ろうかと思いながら病室で少し汚れた白い天井を眺めている時、先程お話した友人が見舞いに来てくれました。
彼は私の絶望した表情を見て、私の気持ちを悟ったのでしょうか。
こう言いました。
「過去のできごとはタイムマシーンがあるわけちゃうし、もどることでけへんで。
今お前がせなあかんのは、これから未来に向かって何ができるか、何をしたいかを考えることちゃうか」と。

 そこで私は交通事故というたった一度の過去のできごとを理由にして、日本語の習得だけでなく、日本と韓国の悲劇的な過去を乗り越えるという大きい目標をいとも簡単に諦めようとしていた自分を恥ずかしく思いました。
私はこの一言で大変勇気づけられ、再び日本で勉強し、クラブ活動も一生懸命に行って行く決心をしました。

 たった1年間の間ではありましたが、私はいろいろなことを日本で経験しました。
私はこの交通事故の経験を通して、悪い経験もよい経験に含めながら、たとえどんなことがあっても最後まで諦めないという強い意志を持てるようになりました。

 このように悪い経験というものは自分の気持ち次第で乗り越えられるものではないでしょうか。

 私の国の格言で「人生の中で3人のよい人に出会う」というものがあります。
ここで私はこの3人の中の2人に既に出会ったと考えたいと思います。
1人目は私に悔しさを与えることによって、私をさらに強い人間へと成長するきっかけをくれた警察官。
2人目はその悔しさや苦しみを乗り越える勇気を私にくれたあの友人です。
そして私は将来あの友人が私にくれたような勇気を他の人達にあげられるようなよい人間になれるように努力したいと思います。

 そこで、このスピーチの場を借りて、今日出会ったみなさんに一言言いたいと思います。

 日本の格言で「産みの苦しみ」という言葉があります。
この意味は何かを産み出す前には苦しみがあるということです。
みなさんの中にも生活の中で問題を抱え、仕事も勉強も諦めたいなと思っている人もおられるかもしれません。
しかし、その苦しみはよりよい結果を産み出すためのものなのです。
苦しいからこそその努力が報われた時、喜びが大きくなるのです。
みなさんもその喜びを味わえるように努力しようではありませんか。

 ご清聴ありがとうございました。


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