私のまちと京都
ベレンと京都−
それぞれのまちの風景とそれを守るために
ヴィオレッタ ミサキ タカノ
Violeta Misaki Takano
  「私、今、京都に留学しているんです」というと、「まあ、いいところに居るね。
」と、よくいわれます。

 京都は上品で美しく、歴史を感じさせる町であります。
また、観光で訪ねた時にほんの少し垣間見るだけの町というイメージがあります。
まるで昔話の世界のように、本当は実在しないのではないかと思わせてしまう町という印象があります。

 四季折々その姿を彩り鮮やかに変化させる自然を背景にし、昔ながらの町屋が寺や神社とともに軒を並べています。
そこへ色白の着物美人が、から傘を手にしっとりと石畳を歩く、という情景をつい浮かべてしまいます。

 私はブラジルのアマゾンで生まれ育ちました。
熱帯雨林地帯であるため、季節は雨期と乾期しか知らず、四季というものを知りませんでした。
ですから一年を通して初めて春夏秋冬を体験した時は、景色が変わるのがめずらしくてたまりませんでした。

 そして、ひとつ気が付いたことは日本人は季節にとても敏感であるということです。
春であればさくらの開花を心待ちにし、その様子を毎日放送するのです。
この季節の美しさを味わうのに、京都は最適だといえるかもしれません。
自然と建築物とが調和されている名所が多いからです。
それは、自然を美しいと思う心、町の景観を大切にしようという気持ちの現われであると思います。

 わたしの故郷はアマゾン河の河口近くにあるベレンという街です。
人口百三十万人の都市で「マンゴーの木の街」と呼ばれています。
街の道路沿い、いたるところにマンゴー並木があるからです。
マンゴーの木の間に建物があるといった感じです。
強い日差しの下で深い緑色の葉に住宅の赤い煉瓦の屋根がとてもよく映える街です。

 ベレンで季節を感じさせてくれるのはマンゴーの木でしょうか。
マンゴーの実が熟する十二月頃になると、あちらこちらで、ドサッ、ポトッ、とマンゴーが落ちる音が聞こえます。
そしてすぐ、ぱたぱたっと人が集まり、マンゴーを拾ってにっこり満足そうに微笑みながらまた歩き続けるのです。
しかし時には車の上に落ちてボンネットをへこませたり、人の頭の上に落ちたりすることもあります。
そんなことが起きないように、実が熟するまえに道端に住む子供や大人たちが木に登ってたいてい全部取ってしまいます。
そしてそのマンゴーはいい値段で道端で売りさばかれます。

 ですから、このマンゴー並木は目にやさしいだけでなく、道ゆく人を時には日差しから、時には雨から守り、空気を浄化し、都市の気温を下げ、さらに人に食物と職を与えるという非常に大切に役割を担っているのです。

 ベレンの街は「旧い街」と「新しい街」という名の区域に分かれています。
旧い街は十九世紀の建築が多く残っています。
それは住宅になっていたり、店舗になっていたりするのですが、もとは美しかったろうという面影を残しながら、荒れるにまかせ浮浪者の住みかとなっている建造物も少なくありません。
いつ崩れるか分からないため住民が危険にさらされているところもあります。

 昔と比べて現在の生活様式がずいぶん変化したため、昔の建造物が情緒あふれるものであるにもかかわらず、取り壊されたり、維持することが困難であるため廃墟となったりするのは、どこも同じかもしれません。

 京都でも伝統的な様式をそのまま残して何代にも渡って使われていた住宅がやむなく取り壊されることがあります。

 しかし、京都は日本ではもっとも歴史的情緒を残している街といえると思います。

 京都の町衆は、街の景観をとても大切にしています。
そのため、外見は伝統的な町屋様式なのに、なかに入ると実はイタリア料理店で驚かされることもあります。
普段は格子で隠れて分からないけれど、その奥にはシャッターがあって、ガレージになっていることもあります。
京都は時代劇のセットとは異なり、そこでは実際に人が生活しているのです。
そこには、町衆の京都への想いと、自分らの町を守ろうという強い意志を感じることができます。

 ベレンの街も変化しつつありますが、街の緑をなくさないよう、植林を毎年行っています。
また、現存している築百年以上の建物は勝手に取り壊したり、外観を大幅に変えることを禁止しました。
空き家になっている大きな屋敷は政府や企業が買い取り、修繕、修復をし、博物館や銀行、マーケットなどとして活躍させています。

 新しいものはこれからも次々と表れるでしょう。
新しいものもいいものです。
しかし伝統的なものは継がれていかなければ、無くなってしまうのです。
完全に断たれてしまった後、復元、再現を試みたとしても、それは伝統とはいえません。
伝統とは時間とともに、少しずつ模様や意図や技術が変わっていっても、ずっと続けて一直線に帯を織っていくようなものだと思います。

 新しいものと伝統的なものが無理なく共存できる街。
それが、美しく、うるおいのある街を築きあげると考えます。

 そして、そのためには私たちひとりひとりが、そして政府が、街の歴史や景観、文化や風習に関心を持つことが大切であると思います。

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