ルームメート〜愉快な仲間たち
−私の見た日本の青少年年−
シュウ デンヒン
周   伝斌
 京都に来てから半年後、私は希望の通りに京大の研究生になりました。
京大の熊野寮に入ろうと思うようになったのは、あくまでも経済的な理由でした。
寮費は意外に安くて、家賃を節約することも出来ますし、この分のお金で大好きな旅行にもいけるのではないかと思えば、得をした気分になったりもしました。
また、寮生活に特有な楽しさを中国の大学で四年間経験したことのある私にとって、再びこのような懐かしい学生生活に戻ってこられるのは何よりも幸せです。
早速入寮希望を出して、今度もいい生活ができるかなと、わくわくしました。

 しかし、初めて熊野寮に来た日は、ここはほんまに京大の寮なん?と、自分の目を疑うほどびっくりしました。
外から見ると、フェンスと木に囲まれた四階建ての灰色のビルは凛然として、すごく閑静な感じでした。
あ、やっぱり京大らしいな〜、と、誰もがそう感じるかもしれません。
しかし一歩中に入ると、全然違うところに来たような気がします。
ロビーの看板に、壁に、ビラだらけです。
内容は反戦、反人種差別などなど。
これをみると、思わず微笑んでしまいました。
なんだか十年前、天安門事件直前の自分の大学キャンパスの光景が浮かんできたのです。
この寮の中は、いったいどんな人たちが住んでいるのでしょうか。
今まで私が抱いていた日本の青少年のイメージと言えば、ファッション、野球、アニメ、ポップミュージックに嵌まっているということでした。
もしかしたら間違ってたんちゃうんかなと、その時からこう思うようになりました。

 私の部屋は四人部屋で、三人のルームメートはK君、N君、S君みんな日本人です。

 やっぱり、ちょっと不安でした。
留学生である二十九歳の私は、今までの生活環境やライフスタイルももちろん彼たちと違っているでしょう。
いきなりルームメートになって、一つ屋根の下でみんなとうまくやっていけるかどうかという考えが心の中に生じ始めてました。
しかし、S君の挨拶はなんと“ニーハオ”で、彼のスムーズな中国語の自己紹介に心の中がイッペンに明るくなってきました。
本当に!ほっとしました。
どこで中国語を覚えはったんですか。
とS君に聞いたら、中国人のルームメートと三年間ずっと一緒に住んでいたから、段々しゃべれるようになったという返事でした。

 そのころS君は就職活動の真っ最中で、あちこちの入社説明会とか面接とかに行ったりして、忙しい日々を送っていました。
しかし、今年の就職率は史上最低、失業率は史上最悪というニュースが毎日のように新聞やテレビに流れていました。
どうなるのでしょうか。
私もすこし心配になりました。
でも彼は相変わらずニコニコしていて、いつものように韓国語、英語も勉強したり、興味がある日本の鉄道を研究したり、楽器を練習したりしていました。
なんか充実してるよなぁ、と私は羨ましく思いました。
夏休みが終わる前に、やっと大手保険会社に就職が決まりました。
あ、やった!彼と同じぐらい、私も嬉しかった。
このような順調とは言えない就職活動の中で、多分誰もが何回も断られ、悩んだりした経験があるでしょう。
でもここから、人生の辛さ、楽しさを味わって、きっと将来に繋がると思います。
あの日、みんなで一緒に飲みに行きました。
久々にお酒を飲んで、ちょっと酔っ払いになりました。

 N君と言えば、最初少し堅い感じで、佐賀県出身の彼はやっぱり“九州男児”やなぁ、と思いました。
彼は夜型で、いつもみんなが学校へ行っている昼間はまだ夢の中です。
この人はアメリカの時間で生活をしているんちゃう、とみんなで冗談を言って笑っています。
N君は日本酒が大好きです。
でも、飲むとすぐ顔が赤くなってきて、アイドルの話をし始めたり、“九州男児”のイメージもお酒と一緒にお腹に入って消えてしまいます。
ちなみに、彼は岡本真夜のファンです。
N君はいろいろな社会問題に結構関心を持っていて、みんなで一緒にテレビのニュース番組とかを見ていたら、時々、政治的な話題になったりします。
しかし私からみると、彼の意見はほとんどが理想的すぎるようですが、そんな時なんだか自分の大学時代を思い出して、昔の私もそうだったのかなとしみじみと感じていました。

 十九歳のK君は私達の弟のような存在です。
二十九歳の私とは全然違う世代だと言っても過言ではないでしょう。
夏休みの時、まだ少し少年っぽく見えている彼は、一人で自転車で京都から新潟県の実家に戻りました。
四日間もかかってかろうじて実家に到着した彼をみて、家族のかたはきっと大喜びだったでしょう。
そしてその四日間はK君にとって、一生忘れられない思い出になったに違いありません。
このような、風に吹かれたり雨に打たれたりした一人旅の中から湧いてきた楽しみは計り知れないものではないでしょうか。
彼には無限の可能性がいっぱいあるはずです。
来年に成人式を迎えるK君は、二十一世紀の青年としてどんな立派な人物になってもおかしくないでしょう。

 “ここは変だよ、日本人!”というテレビ番組がありますが、私もこの番組を見て、日本の青少年は変だなあと思わされる場面に何度も出くわしました。
確かに、青少年に関する様々な問題は今の日本の社会で、深刻になっているかもしれません。
しかし、私はルームメートたちから、若い人が身につけるべき活発さ、自信、自己主張などを発見するたびに嬉しくなってきました。
彼らは青少年らしく、着実に人生の道を歩んでいます。
だからこそこのような若い人たちがいる限り、日本、世界の将来に失望してはいけない、と強く思うようになりました。
愉快な仲間たちと一緒に楽しい日々を送っている私も、人生には必ず花が咲く、と信じています。

 寮に入って良かった。
あの時の決定は正しかったと改めて思いました。

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