夜間中学校の文化祭
バク ヨンズ
 今年十月七日のことです。
私は夜間中学校の文化祭を見に行こうと思って、授業が終わるとすぐ六時に間に合うように急いでタクシーに乗っていました。

 私がこんなに急いでこの文化祭を見に行ったのは、平山という在日韓国人のおばさんが出演するからでした。
彼女は子どもの頃、交通事故に遭って足が不自由な障害者です。
その上いろいろな事情で、義務教育さえ受けることができませんでした。
今六十五歳になって、やっと郁文夜間中学校で勉強することができるようになったのです。
この学校生活について、平山さんは私に「世の中で、こんなに楽しいことはないわよ。
今は作文も書けるし、漢字も少しは読めますよ。
このごろは学校に行くことが私の生きがいです」と涙を流しながら話してくれました。
また周りの人や友達からも「平山さん。
最近顔色もよくなったし、明るくなったよね」といわれるから、ものすごく嬉しいともいっていました。

 ちょうど私が三階の会場に辿り着いた時、もう文化祭は始まっていて、一組の「九九の歌」の最中でした。
次は三、四組の合唱、その次が二組の「ウリノレ」という順番でした。
ウリノレとは「われらの歌」というハングルの読み方です。
ウリノレが始まる前、二組の生徒代表の挨拶がありました。
そのなかで「私達は色々の理由で文字や言葉を奪われ、教育を受ける権利を奪われましたが、今やっと、自分自身を取り戻しつつあります」という挨拶の言葉を聞いて、胸にじんと来ました。
戦後五十年が過ぎたにもかかわらず、戦争の傷痕がまだこんな所にも残っていることを強く感じたからです。
実際に、この夜間中学校の在日韓国・朝鮮の生徒数は半分以上を占めています。

 二組の生徒たちはウリノレの韓国民謡に合わせて、韓国・朝鮮の民族衣装であるバジチョコリとチマチョコリを着て、蝶々のように軽快な動作で踊り回りました。
私は足の不自由な平山さんが、生徒たちと一緒に身も軽く踊る姿をみて、びっくりしてしまいました。
また男の若林先生も女装のチマチョコリを着た上、厚化粧までして踊ったので、みんな大笑いでした。
その先生の生徒に対する心配りと熱意が私の胸に伝わって来ました。

 最近日韓関係・日朝関係が気まずくなって和解ムードを造ることが難しくなっています。
とくに日朝関係は核兵器を取り巻く国際的問題もあって、益々悪化しています。
しかし、この会場内は日本であれ、韓国・朝鮮であれ、その不幸な過去を超え、国家・民族・文化などの壁を超え、ひとつになって拍手し合い、喝采を送る和気藹々とした雰囲気でした。
生徒たちはほとんど七十歳以上のお年寄りが多かったですが、若者に負けないほど生き生きと活気に溢れていました。
このことは陰で力を尽くす学校関係者以下先生方々による努力の結晶であるでしょう。

 この文化祭のなかで一番印象的だったのは、最後の四組による『葉っぱのフレディー』という絵本の朗読でした。
皆さん、舞台を想像してみて下さい。
絵本の風景のスライドが舞台全体に映っていて、両側に生徒たちが並んで座っています。
会場の電気は全部消され、朗読台だけ裸の電気が点いています。
幻想的な雰囲気が漂っている舞台です。
この絵本は葉っぱのフレディーの一生を、生・老・病・死を通じて、表現していますが、死ぬということは決して哀しいことではなく、再び新しい命として生まれることであるという意味深い内容の童話です。
生徒たちが順番に朗読台に立って、この童話を一生懸命朗読している姿は、他の学校では見られない聖なる場面でした。
自分たちが学んだことをみなの前で披露する喜びを胸に秘めて、そこに集まった人たちへの感謝の気持ちで一杯だったに違いないと思います。

 こうして、この文化祭には人の心に暖かい感動を与える人間ドラマがあり、お互いに助け合い、理解し合うという明るい人間関係がありました。
さらに未来に向けて共に生き、共に歩こうという希望の世界もありました。
このように真の相互理解と国際親善は大義名分を立てる大きなことがらではなく、この文化祭のようなささやかなことから出発するのではないかと私は強く思いました。

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