私のみた日本の青少年 −子供に「居場所」を与えよう−

キン シュンヨー
金  春陽  

 私は京都に来てすでに1年半経ちました。いままで、日本の青少年とのふれあいがそれほど多くはなかったですが、私と同じゼミの日本人の学生の弟や妹、そして同志社中学校の生徒たちのふれあいから 日本の青少年の礼儀正しさと思いやりのある心に深く感心しました。

 しかし 日本の一部の青少年の行動を見て「何かおかしい」と思う時もあります。
特にコンビニでたむろしたり、地べたに座り込んだりしている中高生の姿が目にするとこの感じが強くなります。
中国の上海にいる時も学校が終わった後行くところがなく、町の中をぶらぶらする生徒たちをよく見ました。経済発展に一途の中国で残念ながら経済面でらん熟した日本と同じように子供たちが自分の「居場所」を見失いつつあります。
日本では、一部の青少年が「ナイフ」という物によって自分を強くしようと思っているようです。
中国でも、そう思う子供たちが増えることが予想できます。
21世紀の日本と中国を支える子供たちが「ナイフ」に頼ることなく成長することができるように、私は、子供に「居場所」を与えようと提案したいのです。
ここに言う「居場所」とは、子供がそこに居れば安らげる場所、自分に自信が持てる分野 自己実現の勇気がわいてくる所を言います。

 経済の発展で人々は物質の豊富さにはめぐまれますが、精神面の余裕は増えたとはとても言えにくいです。
社会生活のリズムが速くなる一方、競争原理が人々の生活に浸透しつつあります。子供もこの時代の流れから逃れられません。
日本の子供は早い段階から塾に通わされています。家に帰った後、両親(特に父親)とのコミュニケーションがきわめて少ないです。
その一方、中国の都市部では「1人っ子」政策が厳しく行なわれ、兄弟すらない子供たちは自分の部屋にこもり、テレビゲームに耽ることが目立ちます。
このように、いまの子供たちは自分1人の世界に閉じこもり、自ら外に出て、社会の共同体の中で、仲間との触れ合いから自分に通した「居場所」を見つけ出すのが苦手になっています。
その一方、中国も日本も社会の中で青少年向けの、学校でもない、家庭でもない「中間領域」の自由な空間が非常に少ないです。

 また日本では、「最近の子はすぐキレる」と言われますが、それはこの社会が子供に「居場所」を与えていないからです。

 「子供の心が読めない」とも言われますが心の中に「居場所」がないのだから、それは当然のことだと思われます。

 そして、「栃木県でも東京でもナイフで人を刺したのは『普通の子』であるということがとても信じられない。」とも言われていますが、「普通の子」とひとくくりにしないで、それぞれ1人ひとりを認め、「居場所」を見つけさせるように大人たちがちゃんと教えているのでしょうか?

 このごろの日本の子供は、弱々しい自分を「物」によって強くしようとします。「ナイフ」を持ち歩くと、なんとなく気分が落ち着くらしいのです。
しかし、その「ナイフ」という「物」がなくなれば、また元の弱々しい自分に戻ってしまいます。それは「居場所」のない心は「ナイフ」という「物」によって強くすることができないからです。
子供たちの心に本当の自信を芽生えさせる「土壌」はまさにこの「居場所」にあるのではないかと思います。

 それでは、いまとまどっている大人たちは何をすべきでしょうか。私は家庭と学校、地域社会との連携がとても重要だと思います。

 まず、両親の役割として、子供がテレビゲームに耽る等1人の世界に込もらせないように、家庭内のコミュニケーションを重視し、さらに、子供たちの好奇心を大切にして新しい分野へのチャレンジ精神を培うこと等が挙げられます。

 つぎに、学校は生徒に対する評価システムを多様化すべきです。
すなわち、成績だけでなく、それぞれの生徒の個性を大切にし、生徒が自分の「居場所」を見つけるために努力することを大に評価し、またその努力を助成することが大切です。

 最後に、地域社会の役割として、子供たちに学校でもない、家庭でもない自由な空間をつくりだすことが期待されます。

 このように、家庭と学校、地域社会とが力を合せ、子供に「居場所」を与える社会環境に変えていかなければなりません。

 また、日本は自分のこの経験を世界各国と共有し、中国をはじめほかの国が同じことの繰り返しがないように、あるいは、その前に経済の発展と子供に「居場所」を与える社会環境づくりとを両立させられるように国際交流の分野を広げていくことが世界中から期待されています。

 21世紀の日中関係を支えるのはいまの子供たちです、子供たちの心を支えるのはまさにこの「居場所」なのです。
どの子供も「ナイフ」という「物」に頼らないで順調に育っていくために、そして結果として新しい21世紀の日中関係を築き上げられるように、私は子供に「居場所」を与えようと提案したいのです。


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