2008年外国人による日本語弁論大会 発表原稿
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「私の翼になれ」 レン シンイ
台湾
 「秋は夕暮。夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛びいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いとちひさく見ゆるは、いとをかし。日入りはてて、風の音、蟲の音など、はた言ふべきにあらず。」
みなさま、ご存知のようにこれは平安時代中期の女流作家、清少納言により執筆されたと伝わる随筆『枕草子』の初段です。
日本に来てもう二年半になり、住み慣れてきました。
春になると、「春は曙」、夏になると「夏は夜」、冬になると「冬はつとめて」という句が頭の中から自然に出てくるようになりました。
「あーそうか、秋は夕暮れだ」学校からの帰り道、いつも通いなれた鴨川に沿っている時、前に進むことも忘れるほどでした。
その夕暮れは思わず自分は平安時代の人々と同じところに立って、同じ秋の夕暮れに感動しておりました。
日常生活の中に千年前から伝わってきた言葉がこんなささやかなことから私達に幸せというものを感じさせてくれました。

台湾で日本語を勉強する時、文法や語彙などの基礎から勉強して、そのときの私にとって日本語って単なる将来の就職にプラスアルファの技能の一つに過ぎませんでした。
芭蕉の名句「古池や、蛙飛び込む、水の音」のすばらしさは全く感じられませんでした。
花に例えるならば中国の唐詩宋詞は花の中の牡丹で、日本の俳句では朝顔だと思いました。
そう思った私がその言葉の本当の意味は知らなかったのです。
何年か後、日本語をもっと知りたいと、私は京都に留学して参りました。
日本文学を専攻することから改めて日本の言葉、文学に対する新しい認識を得ました。
古典文学を勉強し始め、より深く日本伝統の文化を探り、その言葉遣いの背景の深さに触れることが出来ました。
外国人にとって古典を習うのは現代語よりはるかに難しいです。
最初は大変苦労しました、今もうまく読めないときもありますが、ちゃんとリズムをとって読むと、なんか不思議な感情が湧き出してきて、自分がその国境、言語の束縛から抜き出したことを感じました。
どうしてそんな変化が起こったのでしょうか?唯一の理由は私が心で言葉を読めたからなのでしょう。
本気で日本語が好きになりました。

ご存知ですか?音声や文字によって人の感情や思想を伝える表現法は言葉です。
日本で毎日一番多く触れ合ったのは言葉です。
友達がくじけそうな時に「頑張れ、大丈夫だ」、電車に乗る時「譲り合い」のスローガン、友達と別れる時に「一期一会」などなどの言葉は人々の生活にあふれています。
印象深いのはいつも電車の中に貼っている京都の魅力を紹介するポスターに綴られた言葉です。
それは「日本に京都があってよかった」です。
字面の意味は日本語を勉強する初心者にも分かる言葉ですが、奥にはもっと深いものが秘められているのでしょう?私もようや
く此の言葉の素敵さが分かってまいりました。
敢えて「日本に京都があってよかった」というのは観光地の単なる広告の言葉ではなくて、それは千年都の誇り、大和文化の源、和心の最後の宝庫でしょう。
私は自分の目で自分の足で自分の心で此の言葉の真実を実感いたしました。
私の存在がその証拠です。
それから私もよく周りの友達に「京都に来てよかった」と言い続けました。

みなさま、「好きな日本語の言葉や一言は何」と聞かれたことはありませんか?急に聞かれて、すぐ答えられない人は多いだと思います。
それは普通に存在するありふれた言葉の中から一つを選ぶのは難しくて、また考えたこともないからです。
私は最近見けました。
大好きな一言は「会いに行きます」。
此の言葉を言う人も、言われる人も幸せを感じますから。
これはよくドラマや、歌の中に綴られています。
中国語にももちろんありますー「去看?」、でも、硬いです。
日本語のようにそのやさしさは感じられません。
「会いに行きます」此の言葉で時間、空間を越えて愛する人へ会いに行くその愛情や、ひそやかな気持ちとしみじみに感じられます。

毎年新しい言葉を生まれるとともに、ある美しい言葉は使われてなくて死語になっていくのもあります。
日本には外来語が増える一方、大和の言葉は少しずつ消えてしまいます。
一つ一つの言葉を大事にしてください。
心で感じてください。
心で語る言葉はいくら簡単でも人に伝えることが出来ます、心でその言葉を見て、聞くならば、いくら難しくてもわかります。
将来、日本文学の翻訳者を目指す私はきっといい作品を翻訳できると信じています。
なぜならば、京都で生活するうちに、私は言葉の心が読める力がはぐくまれて参りました、言葉は私の翼となって、国境を越えることが出来ます。

テレビに“言葉は力、言葉は翼、言葉は希望”という広告がありました。
私もそう思います。
もう一つ新しい言葉が分かればそれは世界に行く架け橋になります、もうひとつの文化が理解できるなら、人生という旅をもっと楽しめます。
さあ、「好きになる」は風、「言葉」は私の翼、京都の心、日本の心を頂いた私は人として広く自由な世界にはばたいてまいります。

ご清聴ありがとうございました。


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