2007年外国人による日本語弁論大会 発表原稿
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私と翻訳

チュ ユンア
韓国


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 皆さん、こんにちは。

私は今日、翻訳についてお話したいと思います。学問やメディアなどに関わりを持つ人を除いて翻訳と言われて頭に浮かび上がるイメージが思い当たらないと思います。それほど漠然としたものに思われがちですが、実際私たちが接する情報の半分は翻訳作業を通して造り上げていると言っても過言ではありません。外国の情報を載せた書籍や毎日のように目にする外国の映像はもちろん、古代のものに接するにも現代語訳が必要であることから翻訳は情報の伝達に大事な役割を果たしていると思います。

また翻訳はあらゆる人間の作り上げた<文化>の至るところまでその影響を与えました。例えば仏教のお経が翻訳されたからこそ、世界各国にその教えが伝播されて建築や美術、歴史などに変化が起こったのです。キリスト教の聖書も同様で言い換えれば独創的な発展の原点には翻訳活動が存在していました。

私は何度か翻訳に触れるいい機会に出会い、そこでたくさんのことを学びました。

高校1年の時ある日本の小説に夢中になり、ネットで知り合った人達と翻訳の同好会を作りました。
まだ正式の韓国語版が出版されていない頃だったので、参考になるものなど何もなく、日本語版と辞書を何度も繰り返し見るしかありませんでした。しかも、古代の中国の王朝をモデルにした作品だったので、単語や言葉の使い方から官職の名前まで普通の作品より難しく、苦労は想像を超えるものでした。
それを各自勉強して週に一度ネットで集って話し合いました。文章の表現一つ決めることにもお互い一歩も譲らない勢いでそれぞれ意見を交しました。
皆必死になっていたので、話し合いが終わる頃には“頭の酸素が足りない”と言うのが皆の口癖だったことを思い出すと、今も何となく笑いが込み上げてきます。
お金をもらって働いているわけでもないのに皆でそれだけ頑張れたのは“誰かがこの作品に興味を持って欲しい”という気持ちと、作品に対するそれぞれの愛情に他ならなかったと思います。
本が終わるまで私たちの悩みが絶えることはありませんでしたが、そうやって私は作品に愛情をかけてくれるいい人達と楽しく語り合うことができ、いつの間にか文章一つ訳するにも慎重に考える習慣が身につき、歴史関連の本にも徐々に目を通すようになりました。

また、大学2年の時には運良くも大学が支援する通訳・翻訳家養成課程で1年間勉強してみて“翻訳は物書きを学べる最高の教育だ”というある著名翻訳家の言葉を実感しました。かつて世界に名を馳せた作家たちが外国の作品を翻訳することを足場として自分ならではの文体を確立したように私もいい訳をつくるには母国語の実力が要だということを翻訳を通じて分りました。

これは同じ原文を訳しても人それぞれが持つ個性が文体に表れるのと同じです。世の中に完全無欠な翻訳はなく、<正解の訳>も存在していません。皆違うからこそ、文章にそれぞれの魅力があるのだと思います。また、そんな魅力があるので翻訳は誰にでもできる創造活動だと思います。翻訳は知識のある人が難しい文章を書くことではなく、原文の意味を正確に伝えながら自分らしさが表れることが大事だと思うのでそれが表現できるならいくら簡単で短い文章でも立派な翻訳になると思います。

元を辿ってみれば、私が日本語を習うきっかけになったのは、ある歌の歌詞が翻訳されている4枚の紙でした。初めて目にする全くわからない言葉のはずなのに不思議にも訳の美しさに惹かれたのです。そのことから現在まで勉強を続けてきたのですが、日本語を専攻していなかったら何をしていたのかが想像できません。“日本語を勉強して良かった”と思える自分をみていると翻訳は私の人生を変え、その原点になったと思います。

そして私に<読むことの喜び>を教えてくれたのもある雑誌に載っていた翻訳文でした。村上春樹氏が書いた生と死についての文章でしたが、それに深く感銘を受け、作品に触れることに繋がったのです。偶然目に入ったその文章のおかげか、幸いにして私は読むことが好きな人間になっていました。大学一年の時、旅行に来て生まれて初めて日本という異国の世界を目にするまでその間の知識は全て誰かの手によって翻訳された書物が与えてくれたものでした。それが私に、もっと広い世界があることを気づかせて、夢を見させて、豊かにしてくれたのではないかと思うのです。そしてこのように留学する夢も叶えてくれました。

“かけがえのない”。それが私と翻訳を結ぶ言葉です。

今の私は翻訳についてまだ知らないことばかりで翻訳家の卵みたいなものですが、私が訳した文章が読む人にとって魅力的なものになれるように言葉の持つ力を生かしたいと思います。そして、どんな分野の作品でも手がけられる人になれるように、いろんなものに触れて知識と経験を積み、日本語の勉強を続けていつかは翻訳の仕事に携わりたいと思います。私の話が皆さんにとってかけがえのないと思うものは何か、そして翻訳について少しでも考えるきっかけになれたら幸だと思います。

ご清聴ありがとうございました。



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