2005年外国人による日本語弁論大会 発表原稿
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日本社会での高齢者の役割、そして韓国における高齢化社会のあり方」
チョ ヘミン
韓国
  満開の桜、そして心地よい風が吹く4 月のある日のことでした。
交換留学生として来日した私は、期待半分緊張半分での初めての授業を聞いていました。
かなり緊張していたけれど、充実感がありました。

授業が終わり、帰宅の準備を初めていたら、教室のドアが開き、緑色の作業服を着た白髪のおじいさんとおばあさんが入って来たのです。
彼らは、もくもくと黒板を綺麗に掃除し始めました。
私は突然の出来事で唖然と立ちつくしてしまいました。
「えっ!お年寄りが黒板を消すの?何故?これは若者の作業では無いの?」韓国と全く違う光景を見て、一瞬驚き、立ち止まらざるを得なかったのです。

 それをきっかけに、高齢者の存在に注目しはじめました。
今回は、私が出会った高齢者との交流や行動観察を通し、日本社会での高齢者の役割について考え、韓国との相違点や、改善策について述べたいと思います。

ちなみに、私が高齢者、お年寄り、年配の人と受け止めているのは、6 0 代ぐらい以後の人のことです。
 日本に来て「母国と比べて最も違うところはどこですか?」と聞かれると、私は迷わず、お年寄りの存在と福祉制度だと考えます。
大学のみならず警備員や駐車係の方、パートタイムとしてレジで働いている方の年齢を分析して見ると、圧倒的に高齢者の数が多いのです。
年齢も5 0 代〜6 0 代の方がほとんどです。
働く高齢者の占有率に限らず、彼らの芸術作品や文化生活に対する思いも母国に比べ、その比率はかなり高いです。
その例を紹介したいと思います。

 まず、お年寄りの芸術作品に対する思いから探ってみたいと思います。
夏休みも終わりに近い9 月のある日、知り合いから1 本の電話が入りました。
それは当時、話題になっていた「ルーブル美術館展」のアルバイトでした。
私が勤務した日が、週末であったためか、美術展を見に来る人は、4 0 代から5 0 代が全体の6 割以上を占めていました。
60 代以上は2 割近く、3 0 代と1 0 代が、それぞれ1 割程度の比率で美術館を訪れていました。

個人的な考えですが、これはまさに高齢者社会の現状が十分反映された光景であり、同じ状況にある韓国に比べ、年寄りの数が圧倒的に多いことがわかりました。

その上、日本の場合、若者より年寄りの方が芸術作品に対する興味が深いと感じました。
というのは、美術作品の解説を肉声で案内してくれる音声ガイド貸し出しの業務を私が担当していて、その利用率が爆発的に多かったからです。
彼らの美術品への思いは、半端ではないということを感じました。
 同じように、韓国でも美術展は開催されていますが、日本と異なり、若者の比率が全体の6 割以上を占めています。
美術館を訪れるお年寄りの割合が、日本と逆なのです。
今回、京都市美術館で仕事をし、活気のある美術館の雰囲気がうらやましく感じました。
また、7 0 歳以上の年寄りには、無料で美術展を鑑覧できる機会が与えられている制度を、韓国も取り入れるといいと感じました。
そして、日本のように、世代を問わず、みんなに芸術や文化に興味を持ってもらいたいと思いました。
 次に、仕事場でのお年寄りの行動です。
今回私は音声ガイドの貸し出し及び使い方の説明を担当しました。
それは、一人で全てをするのではなく、三人でするものです。
一人は会計を、一人は機械の貸し出しと回収作業を、一人は使い方の説明を担当します。
もちろん、一人が同じ作業ばかりするのではなく、ローテーションを組み、交代していく方式でした。
従事していた人、つまり同僚は、若い大学生ではなく、専業主婦の方や退職した方でした。
専業主婦と言っても6 0 代ぐらいで、子供たちは既に結婚し家庭を持っているような状況の方たちでした。
 美術館には毎日六千人以上の入場者があります。
ですから、仕事は言うまでもなくハードですし、若者であっても肉体的・精神的に疲れる状況です。
働き始めて間もない頃、正直、年配の方たちは本当に大丈夫なのか、途中で倒れたりするんじゃないのかと心配もしました。
しかし、その心配は無用でした。
彼らは若者以上に頑張っていて、まめに働き、なにに対しても誠実な方たちでした。
音声ガイドの説明をする場合にも、相手の立場に立ち、「お財布をおしまいになって下さいね、ゆっくりでいいですよ。
」のような、ちょっとした気遣い、行き届いた気配りは、とても印象的でした。
年配だからと言って、若い人に命令したり、弱音を吐いたりするのではなく、自ら模範を示しておられました。
このような光景は、韓国では、目にすることが少ないです。
 若者の面倒をみるどころか、自分の面倒を見てくれと頼まれるような場合もあるのです。
特に、韓国人は、儒教の影響を最も多く受けた国なので、年齢のことを気にする人が多いのです。
そのような文化で育ってきた私には、今回の経験は、新鮮であり、日本の違う一面を見たように思います。
 はじめに述べたように、日本も韓国も、高齢者社会であることには違いないのです。
しかし、高齢者対象の制度は、韓国より日本の方がはるかに行き届いていると感じます。
韓国は、このような日本の制度を検討し、良い点は受け入れ、改善すべき点は改善し、これからの高齢化時代に備える必要があると思いました。
日本の場合、単純労働であっても、それに積極的に従事し、その中で充実感を持つお年寄りが多く、子供の顔色を気にすることなく、自立した、自分の人生を楽しんでいる方が多いと思います。
しかし、韓国はまだ高齢者向けの制度の整備が不十分ではないかと思います。
実際に働いている年寄りの数は少ないし、文化的な生活を楽しんでいるお年寄りは、ほんの一握りの人たちだけなのです。
また、たとえ働いている年寄りがいても、それを恥ずかしいと感じたり、仕事の内容に不満を漏らしたりしています。
韓国でも、老人福祉制度の改善が求められる段階になってきたのだろうと思います。
日本のお年寄りの姿に接し、私は、帰国後、自分の国の福祉や老人制度についてより深く勉強したいと感じました。
日本で行われている望ましい制度や考え方を積極的に導入し、これからの韓国における高齢化社会のあり方を模索していきたいと思います。
そして、これらの経験を生かしたいと考えています。


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