日本で得た知識や経験
「色めがね」
 ムハマド シュクリ ビン ガザリ
Muhamd Syukri Bin Ghazari



   「スパス君、今夜うちのクラスはコンパがあるから一緒に行かへん?日本のビールはメッチャうまいでぇ!ガンガン飲もうぜ!」とある日本人の友達が誘ってくれました。「え〜コンパ?ビール?」その時、私はどうしたらいいのかわかりませんでした。付き合った方が良いのか、それとも断った方がいいのか迷っていました。
断ったら付き合いが悪いと言われるし、今度仲間外れにされるかもしれないからです。
行っても私はお酒を飲めないし、同じマレーシアの友達にも何か悪く言われるかもしれません。
 正直言って私は「ビール」あるいは「お酒」というものにはとても恐怖心があります。
皆さんもご存じだと思いますが、イスラム教徒はお酒を飲めないのです。
飲んではいけない規則があるからです。
私はイスラム教徒として、いままでお酒を一滴も飲んだことはないし、お酒は「毒」だと思っていました。
私は日本に来る前までは、お酒に対する価値観はとても厳しかったです。
私はお酒というものは悪魔のような物で、決していい物ではないと信じていました。
またお酒を飲んでいる人を悪い目で見て、絶対にその人は私の仲間になって欲しくないし、絶対に友達になりっこないと思っていました。
まさか日本に来てたくさんのお酒を飲んでいる人と付き合わなければならないとは、あまり考えていませんでした。
ですから私はその時、本当に迷っていました。
でもたくさんの日本人の友達が次々と私に「行こうやスパス君!行こうや!飲もうや!」とずっと言っていたので、結局私はしようがなく参加することにしました。その夜、私は人生初めて居酒屋へ行きました。
 私は、とても不安でしようがなかったです。どきどきしながら、コンパに参加しました。
それは私の人生にとって大変な出来事でした。
店に入った時、すごく変な、すっぱい匂いがして、なんとも言えない気分でした。
私は10人ぐらいの日本人の友達と座りました。
みんなビールを注文して、私と未成年の女の子一人だけがジュースを注文しました。
しばらくするとアルバイトさんが2つのオレンジジュースとその恐ろしい「毒」を運んできて、はじめての乾杯をしたわけです。
その時の気持ちは不安でした。そのコンパに参加した理由の一つに、今まで見たことのない、お酒を飲んでいる人の姿を見たいという気持ちもあったわけです。

 皆さん、信じられますか?実はですね、私は日本に来て初めて本物のお酒を目の前で見て、初めてお酒のにおいを匂って、初めてお酒を飲んでいる人を見て、もちろん初めて酔っ払っている人を目の前で見たのです。
皆さんは信じがたいかもしれないですが、これは本当なんです。
そして、それを見て、感動したと言うか、怖かったんですね。で、私はみんなが、だんだん盛り上がっていくのを見ました。
30分後にはみんな顔が赤くなって、ああ、これが酔っ払いだ、と思いました。
その時ある女の子に「あれ、スパス君はどうしてお酒を飲まないの?まだ20歳になってないの?」と聞かれました。
そこで正直に「私はイスラム教徒でお酒は飲めないです。
飲んではいけない規則があるからです。」と説明しました。
その時みんなは「え?宗教的理由で飲めないの?」と、珍しいものを見るように私を見ました。
で、隣の人が「大丈夫ですよ、飲もうよ」、と強引に飲ませようとしました。
私は「本当にだめですよ」と言ったのですが、彼は酔ってるからかもしれませんが、「大丈夫ですよ。ここは日本ですから、神様いないですよ。君の神様はマレーシアにいるから、神様見えないから、ちょっと飲んでもかまわないですよ」と、私に説得しました。
おそらく彼にとって、イスラムの規則に従う、ということがあまり重要なことだとは思えないんでしょう。
けどわたしは絶対に飲めないですから、そう言われると本当に困りました。
 皆さん、想像してみてください。
もし皆さんがその時の私の立場だったらどうしますか?
これは単なる笑い話じゃなくて、実は重要な問題だと私は思います。
日本人がイスラム教のことをあまり知らない、というのはわかっていたので、まあしょうがないとも思いました。
でもやっぱり人の信仰に対して少し無神経だと感じて、残念な気分がしました。
 私が日本に来た目的は、専門のバイオテクノロジーを勉強することでした。
ですから、以前日本の文化にはあまり関心がなかったのです。
けど、この出来事があってから、留学の目的を考え直しはじめました。
人の文化を知らないうちに馬鹿にしてしまうと、いろんな問題が生じてきます。
喧嘩になることもあるかもしれないし、実際考え方の違いが原因で今戦争が起きていますから、あらためて異文化理解の重要性を感じました。
そしてこういった問題は、実は皆さんのごく身近な経験の中にあるのです。
 まず私は何々人ということを忘れず、自分の国を愛して、また他の立場に立って考えてみることが大事だと思います。
そして心を広くして、相手の文化を理解して、尊重することで自分の文化への理解にもつながると私は信じています。お酒はどうやら「毒」ではなかったようですし、イスラム教も危険な宗教ではないのです。
 そして留学生の皆さんにも、もう一度考えて欲しいと思います。
皆さんもきっと違った状況で、文化の違いに戸惑った経験があるでしょう。
 1982年にマハティール首相が日本を見習おうという「ルック・イースト・ポリシー」を提唱しました。
私が今、日本に留学しているのもこのポリシーのおかげです。
私はマレーシアに帰ったら、日本でのいろいろな素晴らしい経験を皆に話そうとおもいます。
日本でイスラム教への偏見が多いのと同様に、マレーシア人の中には日本に対する間違った偏見があったりしますから、日本のいい伝統や習慣を積極的に伝えていきたいと思います。
 ですから、今ここにいる皆さんも、異文化を馬鹿にしたりせず、理解し、尊敬して、平和になかよく暮らしていきましょう。
また、留学生の皆さんそれぞれの国に帰国した後に、留学が有意義であったと思われるよう、頑張りましょう。
 どうもありがとうございました。

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